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ストーリー
建さんのほろ酔いカクテル入門 第9夜
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建設会社に勤めるサラリーマンの建さんが、自宅のご近所にあるカクテルバーでマスター相手に夜な夜なカクテル談義。
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第9夜「サイド・カー:逃走者のカクテル」
室蘭市内のとあるカクテルバーのカウンター。20時。
建さん:「また来ちゃいました」
マスター:「いらっしゃいませ」
(店の窓から外を眺めながら)
建さん:「GWを過ぎて、また陽が長くなってきたし、暖かくなってきたねぇ。暖かくなるにつれて、建設現場のピッチも上がってきたような気がするよ」
マスター:「そうですね、隣の公園の早咲きの桜もすっかり散ってしまいましたね」
建さん:「とはいえ、また急に寒くなったりするし、殊に1日の寒暖の差が激しいので、体調管理が大変だよ。今晩も昼間に比べるとだいぶ冷え込んできたし、身体が温まるカクテルにしようかな。ブランディベースので、お願いします」
マスター:「承りました」
マスター:「サイド・カーになります」
建さん:「お、ブランディベースのカクテルの本命だね。レモンジュースの酸味とブランディの甘さがうまく調和して、飲みやすいカクテルだね。それにしても、サイド・カーとは、ずいぶんカクテルとは縁遠い名前だねえ」
マスター:「由来は諸説あるようですが、有名なのは3つですね。
サイド・カー付の二輪車が事故にあうと、運転者が本能的に自分を庇うためサイド・カーに乗っている人が重傷になりやすいと言われていますが、このカクテルが生まれた時期は、サイド・カーに女性が乗ることが多かったようなのです。そこでサイド・カーには『女殺し(Lady・Killer)』という物騒なあだ名がつけられていたのですが、このカクテルも、建さんのおっしゃる通り飲みやすい割に、アルコール度数が21度から30度と高めで、男性と同伴でバーに来店された女性のお客様が、つい飲みすぎて酔いつぶれてしまうことから、このカクテルにも「女殺し=サイド・カー」の名が冠されたという説が一つ」
建さん:「その説は、シャレが効きすぎて、酔いがさめるよ。女殺し、なんて血なまぐさいし、カクテルの嗜み方としても品がなくていやだな。それに、サイド・カー付のオートバイって、もっと優雅な乗り物のイメージもあるし、あんまりいただけないね」
マスター:「二つ目の説は、このカクテルが登場した第一次世界大戦のさなか、敵兵の追跡を受けていたフランス兵がサイド・カー付のオートバイに乗って逃走中に、追われることの恐怖を紛らせるために、レモンをかじりながらキュラソーブランディを飲み続けた、という逸話から生まれたものです」
建さん:「ほう、この説はカッコいいなー。ストーリーがあっていいね。サイド・カーに放り込んだ黄色いレモンとキュラソーブランディの酒瓶、そして恐怖と戦いながらオートバイを疾走させる兵士の必死の形相が目に浮かぶようだ。断固こちらの説を支持したいね」
マスター:「(苦笑しながら)一番それらしい説は、このカクテルのレシピを考案したバーテンダーの店の常連客の将校が、いつもサイド・カー付のオートバイに乗って来店していた、という説です」
建さん:「これはまた…つまらない由来だなあ(笑)でも、案外、ここら辺が落としどころかもしれないねえ」
マスター:「このサイド・カーの派生カクテルもありますが、お代りにいかがです?」
建さん:「商売上手だな(笑)じゃあ、それお代り」
マスター:「こちらになります」
建さん:「(一口含んで)これはまた、一層飲みやすい!リンゴの味と香りがさわやかだねえ」
マスター:「カルヴァドス(calvados)というアップルブランディの一種をベースにした『アップル・カー』というカクテルです」
建さん:「わかりやすい、というか、そのまんまのネーミングじゃないの(笑)」
(続く)