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建さんのほろ酔いカクテル入門 第6夜

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建設会社に勤めるサラリーマンの建さんが、自宅のご近所にあるカクテルバーでマスター相手に夜な夜なカクテル談義。

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第6夜 「マティーニ:キング・オブ・カクテル」

 

室蘭市内のとあるカクテルバーのカウンター。20時。

 

(カウンターで空のグラスを眺めている建さん)

 

マスター:「何かお代りをお持ちいたしましょうか」

建さん:「じゃあ、『ウォッカマティーニを。ステアせず、シェイクで』」

マスター:「…建さん、似合いませんよ、ジェームズ・ボンドの真似なんて。当店では、そのカクテルは、英語か、若山弦蔵の声色でのオーダーに限りお作りしております(笑)」

建さん:「ゴメンナサイ(笑)普通のマティーニにします」

マスター:「承りました」

 

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マスター:「どうぞ、マティーニになります。ベースは、当店ではBombay sapphire(ボンベイサファイア)が定番ですが、本日はTanqueray(タンカレイ)で」

建:「『ジンのロールスロイス』タンカレイがベースですか!このカクテル、結構きついんだけど、人気があるよね。私は、このオリーブの実が好きでね(と、オリーブの実をパクついて)ところで、オリーブの実は食べちゃマナー違反なのかな?いいなら、どのタイミングで食べるのがベストなの?」

マスター:「もちろん召し上がってもマナー違反ではありませんよ(笑)一説では、マティーニが強いお酒なので、オリーブの実のオイル分で、胃の粘膜を保護するという役割を持たせているといわれています。そうなると、飲む前にいただくのがベストということになりますが、まあ、結局はご本人のお好きなタイミングで食べるのがベストだと思いますね」

建:「へえ、オリーブの実にそんな意味もあるのか。でも後で食べると、カクテルグラスの底の残りにオリーブの味が染み出て、これも美味いんだなあ」

マスター:「こんな風に、飲み方のこだわりが議論になるカクテルも、なかなかありませんね。さすが、カクテルの王様といったところです」

 

建:「マティーニをオーダーするとき『ドライにたのむ』なんていう人がいるけど、『ドライにする』って、どういうことなの?」

マスター:「マティーニは、冷やしたドライジンをベースにドライベルモット*1を加えて作りますが、加えるベルモットの量を抑えるとよりジンの風味が際立ち、キリッとしたな飲み口になります。ただ、その分量の好みは、百人百様ですね。お客様がどのようなマティーニをお好みなのか、考えながら配合しなければなりませんが、バーテンダーにとってもそこが腕の見せ所。オーダーが来ると少々緊張しますね」

建さん:「注文住宅の営業にも通ずるところがあるねぇ。それだけに、お客様が「美味しいね」と言ってくれたら、何とも言えない歓びだろうね。

・・・そういえば、イギリスの名首相、チャーチルの飲み方が有名だよね」

マスター:「『ベルモットの瓶を横目で見ながら冷えたジンを飲む』ですね(笑)ドライな飲み方の代名詞みたいな話ですね」

建さん:「『梅干しを眺めながらご飯を食べる』みたいな(笑)」

マスター:「執事に『ベルモット』と囁かせて、ジンを飲んだ、という話もあります」

建さん:「パブロフの犬だね(笑)話は戻るけど、ジェームズ・ボンドのマティーニってどうなの?」

マスター:「ジェームズ・ボンドのマティーニは、ドライジンではなくてウオッカをベースにしています。マティーニは、基本ステアで作りますが、彼は特別な作り方をオーダーしていますね。ステアよりシェイクのほうが、お酒に気泡が混ざるので、マイルドな飲み口になるようです」

 

建さん:「映画といえば、昔見た「アパートの鍵貸します」*2でさ、クリスマスイブにジャック・レモン演じる主人公が、あこがれのエレベーターガールと自分の上司が二人きりで楽しい夜を過ごしているのを知って、バーでヤケ酒あおるシーンがあるんだけど、飲んでいたのが確か、マティーニなんだよね」

マスター:「オリーブのスティックの数が6本並んでいて、あおったマティーニの量と、経過した時間がそれとなくわかるんですよね」

建さん:「せつない想いで過ぎていく時間をマティーニを小道具にして印象付けるなんて、粋なシーンだね。たまには、また映画でも見に行こうかな」

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*1ドライベルモット:白ワインをベース、ニガヨモギなどの香草やスパイスを配合して作られるフレーバードワイン。主にフランス産。

*2The Apartment(邦題「アパートの鍵貸します」1960年公開)Billy Wilder監督

 

 

 

(続く)

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