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建さんのほろ酔いカクテル入門 第5夜
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建設会社に勤めるサラリーマンの建さんが、自宅のご近所にあるカクテルバーでマスター相手に夜な夜なカクテル談義。
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第5夜 「グラスホッパー:若草色の輝き」
室蘭市内のとあるカクテルバーのカウンター。19時。
建さん:「また来ちゃいました」
マスター:「いらっしゃいませ」
(カウンターに座って、おそるおそるカクテルをオーダーする建さん)
建さん:「あの、グラスホッパーとかいうカクテル、あるかな」
マスター:「ございます。おつくりしますか?」
建さん:「お願いします。東京で働いている息子がね、カクテル作りに挑戦していて、グラスホッパーが美味く作れるようになった、とか言ってるから、どんなカクテルかと思って」
マスター:「はい、それでは承りました」
マスター:「こちらが、グラスホッパーになります」
建さん:「きれいな若草色だ。なるほど、名前のgrasshopper(バッタ)は、この色から来ているのか。それにミントの香りがさわやかだねえ」
マスター:「このグリーン・ペパーミント・リキュールという緑色でミント味のお酒をベースにしたカクテルです。それに、生クリームとホワイト・カカオ・リキュールを加えてシェイクして完成です。作り立てが命のカクテルなので、早目にお召し上がりください」
建さん:「そうなんだ(と、ぐいっとあおって)ミントのさわやかで刺激のある風味が利いているけど、ミルクやカカオの風味でマイルドに仕上っているなあ」
マスター:「このカクテルは、確かに息子さんが挑戦し甲斐のあるものですね。氷を入れてシェイクするのは、冷やして口当たりをよくするためなんですが、やりすぎると氷が解けて水っぽくなり、おいしくありません。
かといって、半端にシェイクすると生クリームの混ざり具合が悪くなり、冷やしも足りなくなるので、強さと頃合いを見計らうのが難しいんです。」
建さん:「なるほど、仕事でもカクテルでも加減が大事、というわけだ。早目に飲むのも、温まらないうちに飲んだほうが美味しいからだね。」
マスター:「実は、このカクテル、昔と今とでは作り方が違うんですよ。見た目も全然違います。当初は、プース・カフェ・スタイルと言って、シェイクはせずにこの三種類の材料を三層に積み上げて作ったんです。」
建さん:「へー、作るのが面倒臭そうだね」
マスター:「確かに、比重の重い材料から順番に、グラスの中で混ざらない様に静かに注いでいくので、神経を使いますね。お作りしましょうか?」
建さん:「いいんですか?見てみたい、飲んでみたいなあ。」
マスター:「承知しました」
(カクテルスプーンを使いながら、慎重な手つきで3種類の液体をグラスに静かに注ぐマスター)
マスター:「はい、こちらになります」
建さん:「お見事!きれいに分かれているねえ。では、一口(飲み終わった後、少し残念顔で)うーん、シェイクしたほうがおいしいねえ…それに名前から言ったら、今のスタイルのほうが、見た目ぐっとバッタっぽいしね」
マスター:(苦笑しながら)「そうですね。どちらかというと見た目を楽しむスタイルのカクテルですからね。因みに古いスタイルで作るグラスホッパーから、カカオ・リキュールを抜くと、緑と白が鮮やかに分かれたカクテルになるんですが、そのカクテルの名前はご存知ですか?」
建さん:(しばらく沈思黙考)「わからないや、降参」
マスター:「正解は、キューカンバー(Cucumber)」
建さん:「なあんだ、キュウリか。そのまんまじゃないの(笑)」
(続く)